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神戸家庭裁判所 昭和43年(少)1689号 決定 1968年5月10日

少年 D・A(昭二三・一二・一四生)

主文

少年を中等少年院に送致する。

理由

非行事実

少年は、

一、A(二五歳)、B(二六歳)と共謀し、神戸市長田区○○町○丁目○○信用金庫○○支店から同市同区△△町○丁目○○銀行○○○支店に現金輸送中の同金庫○○支店行員を襲い、現金を強取することを企て、昭和四三年三月○○日午後零時一五分頃同金庫○○支店附近の△△銀行横出入口附近に自動車を停め、車内でAと少年が前記○○銀行○○○支店東側通用門附近で行員を襲つて現金を強奪し、Bは車中で待機することを決め、同金庫○○支店から行員が出てくるのを見張つていたところ、午後零時五〇分頃同金庫行員○田○治(二四歳)が現金入りの鞄を持ち、行員△田○和(一九歳)と共に、入金のため○○銀行○○○支店に向うのを認め、Bの運転する自動車でこれを追い、同市同区○○町△丁目○○材木店附近でAと少年がそれぞれスパナ一丁を隠し持つて下車し、自動車をその附近に待機させて同行員等を尾行、同行員等が前記○○銀行○○○支店東側通用門の約二、三米手前までさしかかつた時、Aにおいて、少年に対し行けっと合図すると同時に、自ら鞄を下げた行員○田を襲い、所携のスパナで同人の後頭部を殴打し、少年において行員△田を襲い、その場から逃げ出そうとしていた同人の肩附近を所携のスパナで殴打し、いづれもその反抗を抑圧し、Aにおいて、その場にうつ伏せに倒れていた行員○田の右手から現金五〇〇万円及び額面六〇万円の小切手在中の鞄一個を強取し、その際右暴行により行員○田に対し治療約一〇日を要する左後頭部割創の傷害を与え、

二  Aと共謀し、同年三月○日姫路市○町○○番地附近路上に駐車中の○川○介所有の普通乗用車からナンバープレート一枚(○路○×○○○)を窃取した外同人或はB等と共謀し窃盗(ナンバープレート)二件を犯したもので、その詳細は昭和四三年五月八日附調査官伊藤五郎作成の少年調査票添付の犯罪一覧表(昭和四三年少一四〇九号)に記載の通りであり、

三、Aと共謀し、同年三月△日同市長田区○○○×丁目○○番地○ス○ス石油スタンド事務所で○浦○作所有の現金約一万二、〇〇〇円及び小切手三枚在中の手提金庫一個(時価約五、〇〇〇円相当)を窃取し、

四、同年三月×日芦屋市○○○町○○○番地先路上で○田○雄所有の自動車からタイヤー一本(時価約四、〇〇〇円相当)を窃取したものである。

適条

強盗致傷刑法二四〇条、窃盗同法二三五条、共謀同法六〇条。

処遇意見

少年は昭和三九年四月、○○中学を経て直ちに○○学院高校に入学したが、勉学意欲なく、怠学、不良交友し、同年一〇月傷害事件を起し、同事件は当裁判所で昭和四〇年一月七日審判不開始の決定を受けているが、その後も素行修らず、昭和四一年一月末高校を中退、同年三月頃から○田方面のビニール販売店○倉商事でトラック助手として稼働中、同所で窃盗事件を起し、同事件は当裁判所で昭和四二年六月二七日不処分の決定を受けている。ところがその後も不良交友を続けて遊興に耽り、仕事に身が入らず、家財持ち出し、無断外泊、家出など乱れた生活を続け、同年一〇月頃普通免許をとつてから、ビニール運送業を始める目的で、父にライトバンを買つてもらい、いらい前記Aと行動を共にしていた。Aは少年が○倉商事に勤務中知り合つたもので、本件はAの発案にかかり、少年は昭和四三年二月中旬頃Aからこの計画を聞いて賛成、その後Aにおいて更にBを仲間に引き入れたもので、その間本件にいたるまでの間に、何回となく前記金庫行員の現金輸送状況を実地調査し、実行計画を練つた上での犯行であり、自動車ナンバープレートも犯行に使用する自動車に付け変える目的で窃取したもので、悪質である。しかも少年は満齢に近く、その生活態度の乱れなどから検察官送致とするのが相当であろう。

然し少年は知能準普通域(IQ八九新制田中B一式)、わがままで、まともな勤労意欲に欠けてはいるが、年齢の割りに未成熟で、依存性が強く、周囲に影響を受け易く、その生活の乱れから、たまたまAと交友し、本件に引き入れられたもので、本件強盗致傷事件の主犯はあくまでAであつて、少年等はその助力者に過ぎぬ。しかも現場でAは人に追はれ、現金入りの鞄を放り出して逃走したため、被害金は全額還付されている。家庭には父(四〇歳、会社員)、母(三八歳、店員)があり、特別問題のある家庭でもなく、ただ少年に甘く、少年のわがままを持て余していたものであり、少年にはなお素直さが残存し、いきなり相当長期の刑務所入りは酷であろう。この際収容保護を加え、反省生活を送らせることとした。

よつて少年法二四条一項三号、少年審判規則三七条一項、少年院法二条三項により主文の通り決定する。

(裁判官 三輪勝郎)

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